夢みたいに美しい

ちょっと前にあーこれは私すべてを失ってしまうのだなと思える出来事があって、でも同時に、それで私はゼロからスタートでこれからどうしたいかと自問自答、パッと浮かんだのは「勉強したい」だった。

笑った。笑っていい状況ではなかったけれど。私の底にあったのは知識欲とか好奇心だったのだ。自我を持ち思春期を迎えて以来ずっと"私とは何か"を求め続けて痛々しい失策を重ねてきたのに、こんなにあっけなく見つかってしまった。もとより誰にも邪魔されることのない場所に、絶対に誰にも干渉されることのない答えがあったのだった。

「手放されたのですか?」「はい、少しでも価値のあるものは全部持っていかれてしまいましたの」紅子はそう言ってから振り返り、微笑んだ。「だけど、本当に価値のあるものは、誰も気づきませんでしたわ」
人形式モナリザ森博嗣

東京から沼津への電車を急き立てたあの土曜日の朝6時。前日の夜に沼津の水族館に瀕死のユメナマコが展示されているという情報をゲットして、予定を即決した。夢みたいに美しいからユメナマコ!深海ナマコに会える可能性が今、私の手の中にあるのだ!瀕死というなら一分一秒も惜しいから水族館の開館時間めがけて家を出た。

希少なものを見てどうなるというわけではない。私の人生が一瞬で薔薇色に変わるわけではない。そんな厚かましい願いを抱くほど若くない。

でも、なにかをしたいと思ったときに、それを叶える方法を一つでも見つけられたなら、そのチャンスを引っ掴んで駆け出すべきなのだ。

***

ある人間関係を、それ以外の人間関係を用いて交渉しようとする人間がこの世界には一定数いるらしい。

恋人からの愛情を嫉妬させることで確かめようとする人。めずらしい職業・趣味を持つ配偶者について語る人。それとは逆に、配偶者の悪口を語る人。関係を持ちたい本命の相手ではなくその周囲から固めようとする人。

みんな必死なんだろうなと思う。それしか方法がないのかもしれない。でも人間関係って、そもそも二人きりで築くものでしょう?第三者の助太刀を得られない状況で、二人きりの沈黙を過ごすとき、そんなあなたに私は一体何の興味を抱けるかしら?

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